まず押さえる主要な期限
相続が始まると、実は「期限つき」の手続きがいくつも並行して走ります。最初の3か月・4か月・10か月、この3つの節目を軸に全体を逆算すると迷いにくくなります。以下では重要度と実務の流れに沿って、期限とポイントをコンパクトに解説します。
相続放棄・限定承認:3か月以内
相続開始(死亡)を知った日の翌日から3か月が「熟慮期間」です。借金が多そう、財産状況が不明といった場合は、家庭裁判所へ相続放棄または限定承認を検討します。調査に時間が足りなければ、熟慮期間の伸長申立ても可能です。
被相続人の所得税(準確定申告):4か月以内
相続開始日の翌日から4か月以内に、故人の1月1日から死亡日までの所得を申告・納付します。医療費控除や各種控除の適用可否も確認し、還付の可能性がある場合は漏れなく手続きしましょう。
相続税の申告・納付は10か月
相続税は相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告・納付します。遺産評価や小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減などを使えるかで税額が大きく変わるため、早めに資料収集と専門家相談を進めるのが安全です。申告期限の延長は原則できません(災害等を除く)ので逆算管理が要点です。
未分割でも間に合わせるコツ
遺産分割が申告期限に間に合わない場合、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、一部特例の適用を後追いで受けられる場合があります。まずは概算で申告・納付し、整った段階で更正の請求や特例適用の手当てを検討しましょう。
延納・物納の検討
現金で一括納付が難しいときは、延納(分割納付)や一定要件での物納も選択肢です。要件審査や担保の手当てが必要になるため、早めの準備が肝心です。
名義変更と登記の期限
期限管理は税務だけではありません。相続後の資産の「名義」を正しく移すことは、売却・運用・管理の起点であり、後回しにすると実務で詰まりやすいポイントです。
不動産の相続登記:3年以内(義務化)
相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請が義務づけられています。正当な理由なく申請しない場合、過料の対象となる可能性があります。戸籍収集・遺産分割協議書作成・固定資産評価の確認を早めに進めましょう。
預貯金・自動車・有価証券の名義変更
金融機関や証券会社はそれぞれ所定の提出書類と内部期限を設けています。口座凍結の解除には、相続人確定書類(戸籍一式)や遺産分割協議書が必要です。自動車やゴルフ会員権など固有の手続きがある資産は、管轄窓口と必要書類を先に洗い出しておくと効率的です。
期限を過ぎそうなときの打ち手
余裕がないと感じたら、先に「権利保全」と「納期限対応」を優先するのが鉄則です。全体を完璧に終えてから申告・納付ではなく、使える制度で期限に間に合わせ、後から精緻化する発想に切り替えましょう。
熟慮期間の伸長申立て
放棄・限定承認の判断が難しい場合、家庭裁判所へ期間伸長を申し立てます。財産目録のたたき台を作り、借入残高証明や不動産・有価証券の時価資料を並べて、判断材料を可視化しましょう。
チェックリストとスケジュール
・0~2週:死亡届・年金停止、公共料金名義確認、遺言の有無確認
・~3か月:相続放棄/限定承認の判断・申述、財産調査の集中期間
・~4か月:準確定申告・納付
・~10か月:相続税の評価・特例検討・申告・納付
・~3年:不動産の相続登記(義務)/各資産の名義変更の残務整理